おじいさん猫のこと

 実家で黒猫を飼っています。あれからもう13年は経ったでしょうか。東日本大震災後のある日、以前から外猫として餌をあげていた一匹の年老いたオスの猫が、よく似た真っ黒な小さな猫を連れて庭先に現れました。第一発見者の私の母は、その時はビックリして震えがきたと言っていました。「えーーなんでオス猫が子猫連れてくるの?」

 歩き疲れたのか、くたびれ果てた様子の子猫は、横ずわりの姿勢で「もう一歩も歩けません」と言わんばかりの様子だったとか。おじいさん猫は無言で頭を垂れ「こいつをどうかお願いします」とでも言ったのか、痩せたヨレヨレの猫を母に託し、その日を境に二度と姿を見せることはありませんでした。

 外猫、地域猫、呼び名を変えても嫌われることも多々あり、ご近所への遠慮の気持ちもあります。もしかして、猫にも遠慮の気持ちがあったのか、自分の子供というわけでもなさそうな子猫を生かすため自らの餌場を譲って去って行きました。

 あの猫はどうしただろうかーーあの老いた風貌から新しい飼い主に出会えた可能性は低く、貴重な餌場を失ったことは寿命を縮めただけだろうと胸が痛みます。おじいさん猫が自分の命と引き換えにした子猫は、今や立派なおばあさん猫となり飼い猫として暮らしています。

 猫の父性なのか、後進に道を譲る本能がさせたことなのか、思い出すと涙がでそうになります。だって、人間でさえ父性や母性が欠落してることがありますからね。猫に教えられた大きな優しさ、忘れることはないでしょう。

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